★旅の断片 ~中央アジア・キルギス バザールで働く人々2~
ソ連邦の崩壊、社会主義体制の終焉。
ある意味すべてが平等だった社会から、競争原理に基づく市場経済の社会へと移行していったキルギス。
独立後のこの国では、それ以降、次第に「貧富の差」が目立つようになった。
よくありがちな展開、といえばそんな気もするけれど。
そんな中、僕が不思議だったのは、貧富の差といったキーワードが出てくる際にもありがちと言ってもいい、いわゆる「物乞い」の存在を、キルギスではまったく見なかったこと(いるにはいるのかもしれない)。
これまで訪れた貧富の差が激しい国々では、そこかしこで見受けられた「物乞い」の姿。
キルギスで費やした約二ヶ月半の間、僕は随分と歩き回った割には、物乞いには一人も会っていないことに思い当たる(少なくとも、覚えはない)。
その代わりといってはなんだが、この国では、金をせびってくるのはたいていの場合「警察官」だった。
「キルギスは中央アジアで最も警察腐敗の強い国」
そんな前評判は、ずばりそのとおりの印象といっていい。
キルギス入国後、大都市オシュに到着していきなり「女連れの酔っ払い警察官」に絡まれた。最初に出会ったキルギス人がそんなだっただけに、僕はこの国にただならぬ恐ろしさを感じたものだった。
日本人に限らず欧米人も含め、僕が出会った旅行者たちは皆、「警察官ネタ」の一つや二つくらい持っている。
パスポートにいちゃもんをつけられ別室へ連れていかれた、不当に金を要求された、かつあげされた、殴られた、裁判沙汰にまでなった、などなど、キルギスの警察官ネタとなると話題にはまったく事欠かないほどだ。
国を人々を守るべき立場にある警察官が、酔っ払ったあげくに旅行者から金を巻き上げてしまうような存在であるのだから困ってしまう。もちろん真っ当な警察官もいるが(いなきゃ困る)、困った警察官が多くいるのも確かなのである。
彼らについて総じていえばおそらくこんな感じだろうか。
1に挨拶
2に査証(拝見)
3、4でせびって
5で殴る
あながち外してはいないと思われるのだが・・・・・。
それでもキルギスが暗く恐ろしいところだという印象に終わらないのは、素晴らしい大自然と、僕にとってはやはりバザールで働く人々の姿が大きい。
笑顔いっぱいに活き活き働くたくましいお母さんたち。
そんな姿を見ていると、男たちを支えているのも、この国を根底で支えているのも、本当はこうやって日々バザールであくせく働く彼女たちなんじゃないだろうか、そんなふうに思えてくる。