手のひらの中のアジア -5ページ目

★旅の断片 インド ~世界遺産のタージマハルと裏庭の子供たち~

インド タージマハルと子供たち

インド、世界遺産タージマハルのある街アグラ。


「今日はどこへ行ってたんだ」


夕食時、毎度お世話になっている食堂の親父が僕に訊ねた。


「タージマハルの裏庭に子供たちがたくさんいてさ。その子供たちと遊んでたよ」


僕が答えると、親父の表情が明らさまに曇るのがわかった。


「あいつらには関わらない方がいい」


親父は僕を諭すように言う。なぜ、と問う僕に親父は答える。


「お前、知ってるか? あの辺にいるやつらってのは皆、汚くて貧しいムスリムだ」


ほう、と僕は相づちをうつ。


「あの辺りのやつらはまともな教育なんて受けていないし、大人もまともな仕事なんかない。毎日、飯食って、やることやって、寝る。その繰り返し、頭の中はそれだけだ。正しい知識もなしにただやることやりゃぁ子供ができる。まともな教育を受けていないから、そんなことさえ知らない。知らないくせに毎晩やるから無駄に子供が増える。だから、あそこにもあんなに子供がたくさんいる。そういうことだ。あいつらはインドの成長をさまたげるだけだ。そんなやつらがインドにはたくさんいる。まぁ、中には素晴らしいムスリムだっているけどな」


最後にささやかなフォローをいれたつもりなのだろうが、手厳しい意見だった。親父の言っていることは、あながち否定しきれないし、間違ってはいないのだろう。確かにまともな教育を受けられもせず、貧しい環境に身を置かれている人たちは多い。正しい姓の知識がないために子供ができてしまうという事情も、インド、ネパールの地方ではよく聞く話だ。皆さんゴムを使いましょう、と政府だかどこだかの団体が呼びかけながら無料でゴムを配っている場面を新聞の紙面で見たこともある。


それでも、親父わかってないなぁ、と思うことが僕には一つあった。ものすごく単純なこと。


このしょぼくれた食堂。ここ連日、3食ともこの食堂に顔を出しているにもかかわらず、他に見かけた客といえば、インド人狩りと称して片っ端から男を食すのが趣味というスペイン人の太ったおばさんと、ごく普通のフランス人カップル一組くらいのものだ。


そんななか、親父が手に入れたこの連日の収入の大部分は何のおかげ、誰のおかげかってことだ。僕は1日3食をこの食堂でとる。だが僕は別段、親父の食堂が好きという理由でそうしているわけではない。僕は滞在する街で一人で食事をする時にはだいたい同じ場所へ通う。選択肢は多くても2、3軒程度だ。それは単に、面倒くさい、という理由によるところが大きいのだが、あまりグルメでもない僕にとっては味がそこそこで、「おい今日は何にする、いつものか?」と店の人が僕の注文するであろうものを覚えてしまうくらいが好きなのである。


まぁ、そんなことはいいとして。僕がアグラに連泊したくなった理由は、タージマハルの裏庭で出会った子供たちが僕を楽しませてくれたから、といっていい。物乞いだらけのインドでは珍しいことに、あの子たちは僕に金をくれ、ペンをくれ、飴をくれなどとほとんど言わなかったし(一回だけ少年にねだられた)、あの手この手で旅行者からどうにか金をむしりとってやろうと企む典型的インド人たちに比べたらずっとずっとかわいげがあった。インドでも特に悪評名高いアグラの街なら尚更だ。


あの子供たちのおかげでアグラが楽しくなって、連泊することにした。その間、僕は食事をとる度に親父のいる食堂へいく。いい気分で酒を飲み、食事をし、インドにしては結構な額の代金を支払う。その結果、それは親父の1日の収益に直接繋がる。つまり、もとを辿っていくと、親父が得た収入というのは、皮肉にも親父が手厳しく非難したあの子供たちのおかげだ、ということにもなるわけだ。


なぁ親父、と僕は心の中で呟く。

親父は彼ら、彼女らに対して非難じゃなくて感謝しなくちゃ、だよ。


タージマハルは、確かに美しい。


でも僕にとっては、遠い昔に死んでしまった人の美しい墓なんかより、今ここで確かに生きていて、笑顔で自分の名を呼んでくれたあの子たちの方が、ぎゅっと強く心を掴んだし、記憶に残っている。


インド アグラ インド タージマハル インド ヤムナー川の夕暮れ時

★アジアの旅写真・PhotoGallery ~インド・アムリトサルの黄金寺院~

インド アムリトサルの黄金寺院
写真をclick!!アップ(12photo/Slideshow)

★旅の断片 インド ~Deja vu~

インド・喧騒とリクシャーの街デリー


インド、喧騒とリクシャーの街デリー。

ある日、僕は自転車に乗って街へ出る。

うだるような暑さが少し和らいだ夕刻。しかし、ようやくいい頃合いになったと思って活動を始めたのはいいが、考えることはみな同じ。

大通り、車道は夥しい数のオートリクシャーやタクシーなどで大渋滞、歩道はこれまたインド人たちで溢れ、人、人、人の大洪水。クラクションの嵐と排気ガス、まるで自分に浴びせかけられているかのようにそこかしこで飛び交うヒンディー語。

自転車で悠々と街を走るなんてことはおろか、わずかな隙間を縫うようにして自転車を押して歩くのもやっとだ。

大通りから逃げるようにして車の入ってこない比較的小さな通りへ入ってみる。
でも車がない分だけ路上にはインド人の数が増え、混雑度合いはさして変わらない。

「自転車なんて宿に置いてくればよかったな・・・」

ぶつくさとぼやきながら、直線的に続く商店街をしかたなく自転車を押して歩く。

しばらくして、前方から一台のリクシャーがやってくる。

幌のついていないそのリクシャーとなにげなくすれ違った瞬間だった。

色鮮やかなピンク色のサリーが僕の視界の片隅を横切った。

僕は思わず顔をあげて振り返る。

「サディア・・・?」

以前に出会ったある一人の少女の名が、まるで奥底で眠っていた記憶が溶け出してきたみたいにふと思い出される。

幌のついていないリクシャーの後部座席に後ろ向きで乗っているインド人女性。
ピンク色のサリーを着た彼女の姿をもう一度目で追う。

サディアもいつもピンク色のサリーを着ていた。今目の前でリクシャーに乗っている彼女は、雰囲気がサディアにとてもよく似ていた。でももっと正確にいうならば、それは「10年後のサディア」といったところだろうか。

彼女が大人になったサディアであるはずもないし、僕が彼女の本当の名を知るはずもない。

ただこの時、僕は妙に不思議な感覚にとらわれていた。

「このすれ違う一瞬の光景に、僕はかつて出くわしたことがある」と。

それもまた、あるはずないことか・・・。

商店街の一角で立ち尽くしたままぼんやりとそんなことを考えている中、彼女を乗せたリクシャーは人波をかきわけるようにして少しずつ少しずつ前進し、やがてデリーの喧騒の渦中へと消えていった。

★旅の断片 インド ~チャイの時間~

インド~チャイの時間~


インド・ダラムシャーラー近郊の小さな村。

お母さんからもらった一杯のチャイを片手に、少女は一人、窓際に腰をおろす。

同じように、もらったチャイを片手に、彼女から少し離れた場所に僕も腰をおろす。
彼女の意識がこちらへ向いてしまわないよう、近からず遠からずの距離を保ちながら。

開け放たれた窓から、4月の太陽がとろけそうなほどの熱気と眩しいほどの光をそそぎ込む。

ただ一人、静かにチャイをたしなむ彼女。

その姿は、妹や弟の世話、水汲みや家畜の餌やりなどの家の手伝い、学校、といった彼女をとりまくものから一時的にでも開放され、ホッと一息ついて安堵に満ちた様子にも見えるし、逆になぜだか、どことなく物憂げなように見えなくもない。

いったい彼女は今、どんなことを考えているのだろう。

しばらくして二人の友達がやってくる。
チャイを持つ彼女の隣、空いているスペースに腰をおろす。
わたしたちの、いつものお決まりの場所、といった感じで。

大声で笑い合うわけでもなく、キャーキャーと賑わすわけでもない。
時折くすくすと笑い声が響くだけで、その場はしばらくの間、ここがインドとは思えないほど穏やかな雰囲気に包まれていた。

ふとチャイを持つ少女の方に目をやる。

まだチャイの残っている銀のコップを手にしながら、彼女は頬杖をつき、目を閉じ、静かに友達二人の会話に耳を傾けていた。まるで心地よい小鳥のさえずりを耳にしている時みたいに。

ああ、そうだったのか、と僕は思う。

この穏やかな時間は、やがて妹や弟たちが家に帰ってくると同時に終わりを迎える。
彼らが戻ってきたら、もうそこは一瞬で賑やかな子供たちのたまり場になってしまうから。

これはまだそうなる前の、彼女にとって、ほんのわずかな安らぎのひととき、チャイの時間。

インド~チャイの時間~

★"「Tibet Tibet」上映会 in 埼玉" お知らせ(二度目)


再度、告知です。。。

★「Tibet Tibet」上映会IN 埼玉




【日程】 7月20日(日) 18時開始


【会場】 『大徳寺』 (だいとくじ)




      埼玉県川口市道合1221

      http://www.daitokuji.or.jp/
 

      JR 蕨駅より国際工業バス「新井宿」行き、「神戸団地入り口」下車

      JR 南浦和より国際工業バス「川口医療センター」行き、「神根小学校」下車

      埼玉高速鉄道 新井宿駅より国際工業バス「蕨駅東口」行き、「神戸団地入り口」下車




      国際興業バス時刻表 

      http://kokusaikogyo.ekiworld.net/index.html




【料金】  無料 

     (強制ではありませんが、カンパをお願いします。このカンパ金はチベットへ寄付します。

      団体名決まりましたら報告致します)




【タイムスケジュール】 18:00~ キャンドルライティング

               (チベットのお経をチベット人に唱えて頂く予定)

            19:00~ あいさつ(時間があればお坊さんよりお話)

               「Tibet Tibet」上映

             21:00 終了




【申し込み】


kawagutibet@yahoo.co.jp
  


↑こちらまでお気軽に、参加希望の旨、お伝えください。




会場スペースの関係で、定員60名、だそうです。お早めに!!