★旅の断片 インド ~日常の小さな一コマ~
村の女性たちは美しく、そしてたくましかった。
大きな壷型の器を頭に載せ、共同水汲み場と家の間を何度も往復して水を運ぶ姿。
たらいに浸けた大量の洗濯物をごしごしと手で洗い、時折たたきつけるようにしてパンパンはたく姿。
薄暗い台所で野菜の皮むきをしたり、チャパティ用の小麦粉を熱心にこねる姿。
家畜小屋から家の各部屋まで敷地内をせっせと掃き掃除する姿。
山羊や牛を小屋から引っぱり出したり追いかけまわしたり、家畜の世話に奮闘する姿。
相当な力仕事を含めて、こうしたことはすべて女性の役割だった。
一方、子供たちといる時の彼女たちは、働き者の女性の表情から母親、あるいは姉役としての表情に変わる。
うるさい子供たちを時にたたき叱りつけ、時に優しく抱き上げキスをする。
よく晴れた日の午後、母親が娘の髪の手入れをしてあげる光景は、まるで子猫の毛づくろいをしているみたいで愛らしく、微笑ましかった。
「ねぇ、これよんで、これよんで」
子供が持ってきた何かの冊子を、ゆっくり丁寧に読んできかせる母親。
そのやりとりは、いつまでも見ていたくなるような日常の小さな一コマだった。
彼女たちにとっては、いつもと同じ当たり前の日常。
でもその中にある、何気ない出来事の一コマ一コマは、
「小さな幸せ」が、きっと誰の日常の中にも同じように存在するのだということを教えてくれる。